壊し屋はすぐそばに

昨夜はフォンテーヌブローの地元の友達と拙宅で飲んだ。

参会者は、警察官の友達とその彼女、アパルトマンの中庭を挟んだ一軒家部分に住むご近所さんと僕、この4人である。

警察官とその彼女は、意味もなくやたらと親日家であり、ご近所さんも高校の時に日本語を選択していた親日家である。

何なのかはよくわからないが、フランスにはこの人もあの人もというように親日家が多い。

野郎の料理で豚丼を喰らいながら、ビールを飲みワインを何本も開け、ウイスキーペリエを飲み、ビリヤードをし、ブラックジョークから世間話まで実に色々な談義に花が咲いた。

ご近所さんはパリ郊外の生まれだが、ロッククライミングを趣味にしており、1年半前にロッククライミングの聖地であるフォンテーヌブローに家を買い、今は2人に部屋を間貸ししながら暮らしている。小柄ながらガタイも良く、普通に女にモテそうな40の男である。

「21時半には出なきゃいけないんだ。」と男は言い、
「何で?」と警察官が聴取する。
「出会い系Tinderで知り合った女に会いにいく。」

我々は、爆笑した。

聞くと、この男は5年弱彼女が見つからないと言う。いい男なのにである。
フォンテーヌブローには近場に航空産業の街があるからこの関係者が多いが、彼もそのくちで航空機材のエンジニアをしており、仕事場には男しかおらず、趣味のロッククライミングサークルにも男しかおらず、女はいても男勝りだそうだ。

「フォンテーヌブローらしくカトリックに入信したら、余裕で信者同士の結婚を前提にしたお付き合いができるよな。」
と僕は言い、
みんなは、
「確かにね。Mariage arrangé(お見合い結婚)ね。」と変に納得した。

カトリックは、結婚以外のカップルのあり方は認めず、離婚も認めず、婚前交渉も閉経後の交渉も認めないから、今のフランスにおいては、カトリック教徒たちの特殊な世界を構築している。自由奔放な現代フランス人の世界の真反対のそれである。
動機は不純だが、結婚したいなら入信するという冗談を僕は言ったつもりであったが、変に納得されると困る。

フランスには草野球のようなサークルがそれぞれの地元に組織されているが、年頃の女の子と出会いたければ、合唱とかバドミントンが良いのではないだろうか。ハードボイルドなスポーツやブリッジ・トランプサークルなど老人くさいサークルは出会いには適さない。

「僕は出会い系はやらないね。絶対いい出会いがないと思う。」
僕がこう言うと、警察官の彼女は、
「前に試したけど、やりたい男ばかりで最悪。」と言い、
「そんなこともないよ。」とご近所さんが返した。

しかし、このご近所さん、出会い系で出会いに成功した試しが一度としてないと言う。
そんなものであろう。
とはいえ、職場にもサークルにも女がいないとなると困りものだ。

「ブスだったら戻ってこいよ!」
21時半に我々は、この飢えた猟師をお見送りした。

1時間ぐらいして、ドアがノックされる。
案の定戻ってきやがった。

「ブスだった。写真と違いすぎる。」

我々は、大笑いした。

そして、街場の行きつけのバーの話になる。
実はその夜、僕はそのバーのオーナーと彼の彼女のマリ岡ファナ子さんも呼ぼうかなと思っていたのだが、何となしに声をかけずにいた。

警察官のカップルと僕は、このバーのカップルと友人であるが、オーナーは気分がすこぶる優れないと言う。
先日一人でそこへ飲みに言った警察官の彼女がその訳を話し始める。

「マリ岡ファナ子に彼女の親友が彼の悪口を常に言って聞かせて、彼女はそれを信じ切って、それで別れを告げて、修復は不可能で、彼は彼女に惚れていたから打ちひしがれて、」

こういう話を女にさせれば、女というものは講談師のように淀みなくすらすらと情報を入れてくれる。

「うわ。あいつだろ、入れ知恵したの。」
僕はそのカップルの破壊工作に動いた女をすぐに察知し、こう返答した。
「そうなの、あの女がデタラメをマリ岡ファナ子に吹聴して、ファナ子はそれを信じ切って、バカなの、私は彼氏の方の友達だから、あの元カノとは友達じゃないけど、しかも、あの女はもともと彼氏の方の大親友で付き合ってから彼女に紹介したことから二人が親友になって、いつも一緒にいるようになって、」
「嫉妬だね。」
「そう。嫉妬。バカだわ、そんな話を信じるなんて。」

こうしてフォンテーヌブローの夏明けの最新情報は更新された。

嫉妬は人間を堕落させる最大の敵である。

あの女には僕も少し嫌な感じがしていた。何だかあのカップルといつも一緒にいて、二人の糸で悪魔の懸垂をしているような雰囲気が実際に出ていたのである。

フランス人の界隈で、この嫉妬に狂った輩の破壊工作の話を聞くのは、僕にとって二度目である。
一度目のものは、留学中に大阪の女と結婚寸前にまでいったのに、その男の親友のフランス人がこの女が好きで嫉妬に狂い、この女に「あいつは浮気をしている。」とデタラメを吹聴して破談させたもの。
それから10年経っても、彼は今だに独身。

そして今回のマリ岡ファナ子の話。
ファナ子だって30いくつなんだから、家族を作る適齢期なのに。

訳の分からない壊し屋の話なんか信じちゃいけない。
カップルなんて、毎日彼や彼女が何をしているか、そのアリバイを一番わかりそうなものなのに、親友というポジションの人間からまっとうそうに話をされると、コロッと騙されてしまう。

本当の親友なら、友の恋の成就を支えるべきで、そこに真価が問われる。

しかし、ジェダイであったはずのアナキンスカイウォーカーがいきなりダースベイダーになるように、嫉妬が親友を壊し屋にすることがある。

カップルが別れるのは、理由の如何を問わずセラヴィな運命であるが、ダースベイダーは罪作りなものだ。

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