日本とフランス研究者への道 〜失踪・自殺天国の背景にあるもの〜

研究者と貧困

研究者と貧乏は隣り合わせである。

桃栗三年柿八年と言うが、研究者として独り立ちするには普通十年以上の月日を費やさなくてはならない。

人文科学なら博士号を取得するのに天才でもない限り30歳は必ず超えてくるし、今時30代の半ばまでに准教授に収まれれば極めて早い方で、普通は博士号を取得した後、大学やら研究機関に所属して、ポスドクと呼ばれる任期付きの研究員をやる者が多いし、40代でポスドクの人も山ほどいる。

准教授にならない限りは、薄給で糊塗をしのいでいくしかないから、普通貧困である。

研究者仲間の友人からこれを自嘲したパロディ動画Postdoc Me Nowが送られてきたが、これを観れば一発で、文系理系に関わらず、研究者の若手や中堅がどんな具合かお分かりいただけると思う。

研究者として大学の正規教員や研究機関の正規研究職に収まれない人は、結構歳が行ってから一般企業に就職するか、教員免許を持っているなら中学・高校教員になるか、それでも夢を諦めきれず、大学や中学高校の非常勤講師を掛け持ちしたりして、老年に突入していく。

センセーショナルな日本の事件

日本ではちょうど同時期に起こったお二人の研究者の自殺がニュースになり、一部の世の中を騒がせたそうだ。

1件目に関しては、名前も追悼文も死亡理由も公開で出ているし、相当業績を残された方だというので、ここに名前を残しておく。仏教思想史研究者の西村玲さんである。

西村さんは将来を嘱望されて、研究業績も申し分なかったそうだが、40を越して正規のポストにありつけず、プライベートの問題も重なって自殺された。

相当優秀であったそうで、彼女の自殺は思想史界を騒然とさせ、また、優秀な研究者なのにポストがないから自死を選んだという理由の一つが世間の関心を惹いたようだ。

2件目は、九州大学研究室焼身自殺事件である。

これもまた、50歳近くになって一切のポストにありつけなかった憲法学者の博士が、九大の研究室に火を放って自殺した事件である。この方も、非常勤講師や居酒屋のアルバイトをしながらギリギリの生活を送り、心身ともに追い詰められてこういう形を選んだという。

NHKが事件の涙という番組で、この方の貧困状態に追い込まれていく様を、行きつけのラーメン屋や整骨院、やっとのことで教授のポストを得られた門下仲間などにインタビューして真相を追っている。この番組は気が重くなるが、よく出来ているし、Youtubeにまだ上がっているかもしれないので、興味のある方にはご覧いただきたい。いい番組だから、NHKには消さないで欲しい。

この世を捨て、死を選ぶということはよっぽどのことであるとは感じるが、特にこの憲法学者は、話せたかは知らないがドイツ語ができたということで、死ぬぐらいならなぜ貧困から脱出しようとこの才能を生かした方向へ行かなかったのかなと残念に思う。

ドイツ語ができるソーセージが絶品のドイツビールバーのオーナー研究者とか、そういう発想にはならず、専門職としての研究者に固執したのであろう。勿体無い。さらに、ドイツ語なら、医者や音楽家などには需要もあるし、彼ら向けのドイツ語の先生やら生きる為の別の道は考えなかったのだろうか。

こういうことも重なって、日本では2割の博士課程卒業生は自殺するか失踪すると言われている。

卒業後完全に研究の世界との関係を断ったために、大学側が足取りがつかめないOBOGたちを失踪と言っているので、言い過ぎの感があるが、確かに博士課程卒業生の足取りは覚束ない。

しかし、こうした貧困とともにある現代の研究者の世界というのは、こういう悲しい事件も起きるし、フランスにおいても日本においてもどんよりと陰湿な雰囲気である。

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