ストライキ大国のフランスに住めば〜年金改革の鉄槌〜

フランスはストライキ大国である。
生活をしていて、これをひしひしと感じるのは、定期的に訪れるフランス国鉄SNCFのストライキである。
そして、フランスとオランダの国営合弁航空エールフランスも時折ストライキをする。

列車が運休し、人は車以外では動けなくなる。
列車が著しく減便され、たまに来る列車は人でごった返して、インド状態になる。
予定していた旅行ができなくなる。
仕事に行けなくなる。
そして、ストライキはいつになれば終わるかわからない。
ストライキが始まると、実に我々は交通にイライラし、ヘトヘトになる。

蓋し、ストライキというのは諸刃の剣である。
ストライキをか弱い労働者の権利であると言ってやれば聞こえはいい。
しかし、公共交通を担う公務員のストライキは、市民生活を直撃し、市民を疲弊させる。
そして、ほとんどの交通が国営か公営しかないフランスにありて、ストライキは、普通国家財政の健全化のために、国家が公務員の身を切る改革を打ち出し、これに交通系の公務員が断固反対することで巻き起こるから、民間人は親方トリコロールに甘える公務員を憎む。

どうせクビにならないと甘んじる公務員。
鉄道員など、サボタージュ、怠慢、客への不敬な態度、こういう甘い汁でベトベトの環境天国であぐらをかいている。
そして、メスがチラつき手術台に乗せられそうになると、スト権を行使して暴れる。

民営化したり、公務員の待遇のレベルを下げることほど、経営改革において、難しいことはないかもしれない。
特に国営の公共サービスほど、必要以上の雇用者と様々の無駄により、放漫財政が慢性化し、赤字が膨れ上がるものもない。
民間企業では到底ありえないこの部分にお上がメスを入れようとする時、公務員は拳を挙げ、赤い旗をなびかせて、決死の反撃に出る。

2019年9月13日は、パリ市交通局RATPのストライキである。

パリ市交通局がストライキをするというのは珍しい気がする。
彼らがここまで大掛かりなストをしたのは、サルコジ政権下、2007年の10月18日であり、この際は、ストライキの際に交通機関が前もって市民に通知し、最低限は乗り物を動かすように命じる法の制定を巡ってのものであったそうだ。
私がフランスに来る5年前のことだから、覚えているわけもない。

しかし、このパリという西洋一の大都市と近郊の交通が麻痺すると、大都市は混乱に陥る。
ストライキの目的が達成されるかはわからないが、ストライキの効果としてはてき面である。

本日私は会議のために大学に行ったが、パリ市営以外の公営バスや国鉄は平常通りであり、パリのメトロも、運良く無人自動運転のメトロ14番線は動いており、何ら被害は受けなかった。むしろ、多くの人々が、サルコジの法のおかげか、あらかじめストのことを知っていたから休業したと見え、パリは人出が少なく、何時であろうと満員の14番線がガラガラで拍子抜けしたくらいである。

さて、今回のストライキの理由は、一部公務員の退職時期が現代社会に即さないほど早く、年金も他の公務員に比べて高いことに関して、国家がメスを入れようとしていることにある。

そして、この一部公務員とは、国鉄とパリ市交通局、ガスや電気産業に従事する企業の官営連合であるIEG(Industries Électriques et Gazières 官営電気ガス産業連合)の面々を指す。

フランスの通常の退職年齢が63歳で、公務員は通常61歳のところ、国鉄は延長したりしなければ、平均して57.7歳、パリ市交通局は55.7歳、IEGは56.9歳と早くから退職し、年金生活に突入できる。また、このズレは、パリ市交通局でも、メトロの従事者は最短で52歳の退職などと職域で差があることに由来する。

特にパリ市交通局の人間は、89.9%が60歳時点で退職しており、平均寿命が82歳のフランス人なのだから、もうちょっと働いて自分で稼いでくれという民間人と国家の思いがある。

そして、年金が慎ましいならまだメスも牙をむかないと思うが、この三つの官営機関の公務員は特権的であり、最初から勤め上げれば、天引き前の月額の年金が、一例として、パリ市交通局で3705ユーロなどと、普通の公務員のそれが2206ユーロなのに比して莫大である。

そのため、国家会計検査院から、国庫や公庫の状況や社会の平均値に照らし合わせて異常であると指摘され、ここにメスが今刻まれようとしている。

それ故の今日のストライキである。

今回は干支が一回りして久々にパリ市営の小役人たちがストをした位だから、国鉄もこのまま行けばやるだろうし、下手をすればガスや電気が止まるかもしれない。フランス人のリアクション芸が見れて面白いから止まってほしい。

しかし、彼らはフランスの普通の人たちから、小役人のくせに悠々自適の潤沢な年金と早い退職年齢を聖域として保持しているから妬まれているし、ストライキをやればやるほど、市民たちから「ふざけやがって」と一層妬まれる。

本来なら国家は、赤字まみれのこうした公共サービスを民営化し財政をスリム化したいのは山々であるのだが、マクロンが就任当初にやろうとした国鉄改革に伴う大規模ストライキに代表されるように、断行するのは容易ではない。

そのため、作戦として、この三種の特権的公務員の甘い汁の供給を断ち切るべく、国家が退職年齢と年金という外堀から聖域を埋めていこうとしているのが、今のフランスの現状である。

さて、私の場合は国鉄がストライキをすれば、フォンテーヌブローから片道70キロもあるパリに徒歩では行けないから、公然と大学の講義をすっぽかして給料泥棒をする口実ができるし、関係各位や生徒には「Ce n’est pas ma faute. 私のせいでは御座いません。」と開き直って無限休講を出して、生徒も私の授業が消えて喜ぶであろうから、何卒国鉄の労働者諸君には小粋に一つ、この新学期から一年間のストライキをお願いしたい。

参照)
http://premium.lefigaro.fr/social/regime-special-de-retraite-ces-tres-chers-avantages-des-agents-de-la-ratp-20190912
http://premium.lefigaro.fr/conjoncture/retraites-la-cour-des-comptes-etrille-une-nouvelle-fois-les-regimes-speciaux-20190716
https://www.rtl.fr/actu/debats-societe/greve-ratp-quels-seront-les-effets-de-la-loi-sur-le-service-minimum-7798319491
https://sgeieg.fr/la-branche-des-ieg/entreprises-et-salaries-de-la-branche-des-ieg

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