グラシ不安心グラシアン

家に帰り料理をする。
ふと足元を見ると、キッチンの下から水があふれている。
スマートフォンで写真を撮り、即大家さんにメールを打つ。
大家さんは明朝に確認に来ると言う。

シンクの下を確認しても、その配管から漏れ出している様子はない。
とりあえず、水に布をかけ、応急処置をする。

翌朝に大家さんが来る。
キッチンの下を覗き見ると、確かに水は出ているのだが、問題の配管が見当たらない。
壁の奥から水が漏れ出しているのか、床の下に配管があれば、そこから吹き出ているのか、我々は知る由もない。

大家さんは馴染みの水道屋さんに電話し、彼が2日後に来ることになった。

2日後に相棒と2人で来た水道屋さんは、即座に、システムキッチンの裏側に這っている配管が原因であろうと推測し、システムキッチンの奥の木の部分を削ることの承諾を大家さんに取り、これを行う。

プロの推測は的中し、流しの配管がシステムキッチンを壁へと這っていく部分の結合部が錆ついて水漏れを起こしていた。そして、これを新しいものへと取り替え、1時間弱で彼らは次の仕事場へと向かった。

実は彼らは3ヶ月前にも拙宅へ来ている。
その際は、玄関の扉の上を這う上水の管の結合部分が腐食し水漏れを起こしたのであった。

数えるに、7年間のフランス在住に4回の水道トラブルである。

1度目は、17区のアパルトマンの最上階の部屋の全ての下水が詰まり、自分でインターネットの検索の最上位に見つけた業者に連絡したら、見積もりにだけ来て何もしないで200ユーロを請求された。
ネットに出ていればくらしあんしんクラシアン的な安心な業者だろうと思ったら、フランスでよくあるぼったくり工事業者であるとのことで、不動産屋にこういう場合はフランスでは大家に連絡して大家経由でやらないとダメだと言うことを教えてもらった。
割高な人生勉強代である。
この時は家で暮らせないので、数日友達の家に世話になったのであった。

2度目は、13区のアパルトマンで、下水は問題なかったが、トイレの上水部分が腐食して、水の流れが止まらなくなり、トイレを丸ごと大交換する大技であった。

なんだかフランスでは便器がゴミ捨て場に捨てられていることがよくあり、さすがフランス人は便器も好きなのかと思っていたのだが、こういう裏があるらしい。

3度目は、3ヶ月前の上水一件。

7年で4回というのは、フランスでは多いような少ないような、水道トラブルである。

フォンテーヌブローの水道屋さんは親切である。
フランスの建築が古い建築に様々の現代設備を後付けしているせいで、仕事が追いつかず、山のような依頼を、彼ら水道屋のおじさんたちは持て余していると言う。

「ところで、僕の家は築何年ぐらいでしょうか。」
こう尋ねた。

家の内覧に来た時、外から見た建築が余りに古く、木の螺旋階段も古いので、とんでもないところに来たなと感じて、階段を上がりながら断ることを決めていた。

しかし、扉を開けると、中は優れてリフォームの施された、完璧に美しいアパルトマンの一室であった。僕はここに暮らしてみようと即決した。
後から大家さんに聞くに、日本人ブランドのおかげで、別に3件の申し込みがあったが、僕に貸すことを決めてくださったという。

ただ、内面は美しくても、外面がオンボロであるように、確かにこのアパルトマンは古い。

水道屋さんは
「1930年代だなこれは。フォンテーヌブローは古い物件ばかりだから。」
そう教えてくれた。

「後付け後付けで、建物が参っちゃってるよ。フランスは。」
そう彼は笑った。

フランスの建築はレトロで美しいものが多い。
イタリアもそうであるし、ヨーロッパなら戦果を逃れた街や、旧市街がよく残された街ならそうであろう。

特にフランスは、天変地異もないとあって、随分と古い建物の上に、我々現代人が現代的な設備をくっつけて暮らしている。

しかし、電気ならまだしも、水を汲みに行っていた時代の建物に、水道管も下水も引くのだから、水回りが著しく弱い。
定期的に結合部分が腐食したりして、水漏れも起きれば、どうにもならない経年の詰まりなどが生じる。

日本はデザイナーズ物件や、味のある古民家リフォームを除けば、味を感じられない現代型のハウスや集合住宅があふれているが、機能は最高である。

フランスでは、水漏れに遭遇しないことなどない。
フランス人は日本で震度3が起こると不安がるが、僕には震度3より派手な水漏れの方が不安である。

グラシ不安心グラシアン。

カテゴリー: エッセイ パーマリンク

コメントを残す