ピガルリーという警察用語

マル暴・ホシ・ガサ・落ちる・シャブ。
日本においてもいくつか知られた警察用語がある。

警察が隠語的な用語を持つというのはフランスも同じのようである。

今回の新出フランス警察用語は「ピガルリー(Pigallerie)」。
念の為調べてみると、この言葉はもともとは、「メトロの盗人」を表すという。

しかし警察官の友達が教えてくれた意味はそれの発展形である。

これは新旧両方において、パリはサクレクール寺院を擁するモンマルトルの丘のふもと、有名なストリップショーというかキャバレーの元祖、赤い風車ことムーランルージュの一帯であるピガル地区に由来する。

この友達はこの9月から郊外の警察署へ転任するが、長らくこのピガル警察に勤め、半年前にピガルの犯人と格闘して腰を負傷しヘルニアになり、手術を躊躇して自宅で癒えるまで休職中である。

ピガルは悪名高き地下鉄2番線と上品下品のパリを結ぶ12番線の駅を擁し、モンマルトルに行くときによく使われる駅でもある。そして、この一帯は下流の歓楽街でもあり、従って風俗とドラッグの街でもある。

そして、風俗とドラッグの街といえば、観光客をカモにすることに長けている。

僕は日本ではティッシュ配りからも宗教勧誘からも構ってもらえないのに、不思議とエロ勧誘は頂戴する。
歌舞伎町では女と歩いていたのに、「お兄さんおっパブどうですか?」とつきまとわれ、ピガルでも女とモンマルトルから下るさなかに、「Shakuhachi、Shakuhachi」と声をかけられ、あまりに驚いてこちらの方が立ち止まってしまった。 
日本でも今どき尺八なんぞ言わないのに、何でこのインド系の風俗の客引きがそんな言葉を知っているのかとある意味感心した。またアジア人イコールひとまず中国人のフランスにあって、日本人と見分けているところがすごい。

それ以外にも、ピガルを歩けば、「ドラッグ要らねえか?」とか「女10ユーロ」などと言われることがある。
ドラッグと10ユーロの女の話はピガルを歩くと言われる有名な文句で、我々は千円ちょっとの売春婦っていうのは何なんだと逆に恐怖を覚える。

しかし、尺八にせよ女10ユーロにせよ、フランスに来て舞い上がる観光客なら、「綺麗なパリジェンヌが千円?尺八?」などと変な妄想を膨らまし、お買い得と思って飛びつく人間がいるのであろう。

これらは冷静に考えれば当たり前にぼったくりなのだが、この観光客の思考の落とし穴に浸け込み、グレーゾーンを利用して観光客をカモにしている連中である。

フランス語を話せないから質問できない、というカモ側の問題もあるのかも知れないが、カモは店先に酒の値段も記されていないのにこれを怪しまず、客引きや店内でのサービス提供前に値段を確認することもせずサービスを受けてしまうという。

それでストリップなり酒なり、あるいは尺八を奏で、お後がよろしゅうと思いきや十万円の請求が来て、ぼられたと泣きながら警察を呼ぶのだそうだ。
尺八の音色はトランペットでもファゴットでもホルンでもなく泣いているのだから、みるからに怪しいであろう。
友達は毎日このために出動したという。

しかし、これはたしかにぼったくりだが、グレーゾーンである故に警察は動けない。

このピガルの合法的なぼったくり風俗被害のことをフランス警察はピガルリーと号す也。

「ドラッグ」っていうと
「ドラッグ」っていう。

「ストリップ」っていうと
「ストリップ」っていう。

「もう尺八」っていうと
「尺八」っていう。

そうして、あとで
お勘定になって、

「千ユーロ」っていうと
「ぼったくり」っていう。

こだまでしょうか、
いいえ、誰でも。

カテゴリー: エッセイ パーマリンク

コメントを残す