すきっ歯のフランス・八重歯の日本 〜歯の美的感覚と社会〜


1. 歯列矯正発祥の地フランス

今や、西洋社会の人間美において、歯は極めて重要であると同時に、社会的地位の簡単な指標になる。

歯並びが悪いということは、美しくないとされ、同時に歯が子供の頃に治せなかった貧困の出で、大人になってもまだ治せないとなると今も貧困であるということを示す。

それもそのはずで、歯列矯正の元祖はフランスで、Pierre Fauchard (ピエール・フォーシャール 1678-1761)というブルターニュ人の歯医者が、パリで口腔外科の権威として、歯列矯正を提唱したのが最初だとのこと。
彼はルイ15世の治世に名を残し、誰を治験者にしたかはわからないが、見えている歯の部分だけを、小さな金属板を咬ませたり、結わいたりして矯正してみせたと言う。
そして、この研究が徐々に発展し、今の歯列矯正のような一気に輪を咬ませるやり方が20世紀の初頭にアメリカでEdward Angle(エドワード・アングル)によって生み出されたそうだ。

問題は、歯列矯正の歴史は、医学・歯学・口腔外科の歴史の中でざっと論じられているだけなので、歴史学で取り上げられていないことにある。
コスメの歴史などは少しあるようだが、美の歴史研究などは王道じゃないから、あまりテーマとして取り上げられていないと思われる。

すると歯列矯正の発展の歴史は医術史で分かっても、いつからフランスの「庶民」が歯列矯正をできるようになったのか、昔の歯並びの悪い人間はどういう扱いを社会でうけたのか、どういう社会階層の人が歯列矯正を重んじはじめたのか、欧米において歯列が美の絶対的な価値観として定まり、歯列矯正できないことが蔑まれるようになったのはいつからなのか?
こういうことが分からない。

ただ、現代においても、歯列矯正は庶民のみんなができるものではない。
大人になってからでも歯列矯正はできるが、ヨーロッパでは子供のうちに親が歯列矯正をするのが普通である。
そして、フランスでこれにかかる費用は、16歳以下の子供で、最大6セメスター(3年)を治療期間とし、1セメスター(半年)1000ユーロかかる。
社会保険が193.5ユーロをバックしてくれるが、それでも半年10万仕事である。
治療には普通、トータルで1000€×6-193.5€×6=4839€、すなわち50万以上かかる。
それ以外にも初診料などがかかってくる。

これは貧困層には出せない値段である。
そのため、歯並びが良い悪いは、現代フランスにおいて、美しさと社会階層の指標になっている。これは、欧米ならどこでもそうであろう。

2. すきっ歯のフランス・八重歯の日本

こんなにフランスが美に関連して歯列にうるさいと言っても、許されているものがあり、それはすきっ歯である。

代表がジェーン・バーキンと、ジョニーデップの元妻ヴァネッサ・パラディであるし、中流階級以上が多い白人の女性でもすきっ歯は普通にいるし、私の友達にもいる。

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https://www.puretrend.com/media/les-stars-et-les-dents-du-bonheur_m772506

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https://www.puretrend.com/media/les-stars-et-les-dents-du-bonheur_m772499

すきっ歯は、フランス語でDents du bonheur (ダン ドゥ ボヌール 幸運の歯)などと呼ばれ、肯定的に捉えられている。

由来は、ナポレオン戦争の時代に、兵隊達は銃を両手で持ったまま、火薬を補充する紙袋を前歯で上手く切らねばならず、すきっ歯の人間はそれに適さないとして除隊になったから、「幸運の歯」なのだそうである。わざと、歯を抜いた人もいるとのことだ。

日本人からすると、すきっ歯にこうした由来はないし、プラスイメージはないと思われるが、逆に八重歯のイメージは良く、これは、フランス人が驚くポイントである。

フランスで八重歯は、ドラキュラの歯などと言われ嫌われており、日本のアイドルに八重歯がいたり、八重歯が可愛いと思われていることが、信じられないというような論調で様々な記事が書かれている。
そして、さらにはフランスも保険が効くと言っても高いが、一応歯列矯正に保険が適応なのに対し、日本の歯列矯正に保険が原則効かないことも驚愕のようである。

私は個人的には八重歯もすきっ歯も似合うなら可愛いと思うのだけれど、美というものの基準や価値判断は、民族や文化まちまちだから、八重歯の可愛い日本の女の子が、フランスでそのためにブス扱いされるのも可哀想だし、そもそも日仏双方で金がないと歯列も直せないし、歯は難しい話である。

参考)

https://www.alptis.org/complementaire-sante/remboursement/orthodontie-enfants-adultes/
http://www.sfodf.org/avada_portfolio/histoire-de-lorthodontie/
https://www.biusante.parisdescartes.fr/sfhad/vol11/2006_06.pdf
https://www.adea.org/GoDental/Health_Professions_Advisors/History_of_Dentistry.aspx
https://www.kotoba.fr/yaeba/
https://www.cnews.fr/divertissement/2017-08-23/pourquoi-parle-t-de-dents-du-bonheur-754719

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