男の悲哀・子の悲哀

「コンドームは二枚重ねで。」
そう言ってマルボロは僕に笑う。

昨夜は、キャメルの子が男児と判明したのにかこつけて、僕とマルボロとキャメルは祝杯を挙げた。3人の腹が出てきて、これを叩くのが僕らの挨拶になった原因として明らかなように、僕らは実によく呑むから、酔い潰れないためには居酒屋のように呑みながらしっかりと食べられる処がよく、たまたま先週に行われたパリ大学日本学科の教員の打ち上げで使われた料理屋へと行くことにした。パリで良心価格で旨い本物の和の店というのはほぼほぼないが、ここだけは年季の入った日本学科の先生方が贔屓にしているだけあって、本当に美味しい。

かつて目白の裏に、学習院贔屓の海賊という居酒屋があって、ここはまずかったが、なんとも言えない素朴で紫煙燻る貧乏学者堅気の佇まいが良かったが、親父さんの死去とともに消えて無くなった。その後学習院の面々の飲み会に出させてもらったとき、もはや個人店ではなく、チェーン居酒屋での飲み会となっていて、なんとも悲しく思ったものである。
ここパリの料理屋K、オールドスタイルのままにずっと残って欲しいものである。

実はここには、僕ら三人に加え紅一点、素敵なふらんす女がいた。この女は手巻き煙草を吸うから巻子とでもしておこう。巻子はユーモアに富みおしゃべりな女だが、新潟の真紀子のようにはうるさくない。巻子も大学時分からの仲間であり、旅行に魅せられ旅行代理店で働いていたが、契約社員社会のフランスのこと、一月半前に契約が切れ今は世界各地を旅している。

我々三人は巻子とは極めて仲が良いが、野郎三人はしばしば巻子を誘いそびれる。男というのは実に気が回らぬものである。何も巻子をわざわざ誘わないのではなく、とりわけ巻子は可愛い顔をして男勝りだから下ネタだっていけるし全く我々の邪魔にならない。それなのに、我々男三人はメール一本すぐに三人で寄り合って、彼女を呼び忘れるのを常態にしている。

しかし巻子はやはり女である。女だからいてくれるだけで場が和らぐし、野郎にはない女の視点からの発言は議論を上質にする。

我々四人はキャメルの好むアサヒビールをつまみを頼むより先に注文しキャメルの子が男児であることの祝杯を挙げた。
そして巻子は女である。すぐに僕がワインへ切り替えようとすると「私赤飲めないの。」とのたまう。
僕は「やっぱりお前女だよな。」と言いアルザスの何とかという白ワインを注文した。
日本では女は赤ワインより白ワインを好む気がしているが、フランスでも民族は違えど女は同じく女、だいたいワインは白を好む。

扨、子キャメルが男であることを一番喜んでいるのは他ならぬ僕である。僕にはママゴトは出来ないが、ミニカー遊びやボール遊びならできる。そして様々の裏メニューを用意することも可能であり、どちらかと言えばそちらがメインである。

「男の子だから目茶苦茶なことを教えてやろう。お前も男で嬉しいだろう。」そうキャメルに僕は問うた。
「いや、俺は妹二人と育ってきているからどうかな。」キャメルはどこか自信なさげに見える。
マルボロと巻子は大変に優しい笑みを浮かべていた。

スクウェアの公園で落ち合った時からキャメルは浮かない表情をしている。
無骨な顔の僕、柔和なアルカイックスマイルの仏の如きマルボロ、そして南国の女と見紛うほどにいつも笑っている巻子。
この流れに乗じてお笑い男のキャメルこそが、破顔に喜びをくっきりと浮かび上がらせて欲しいところではあるが、スキージャンプ団体戦のチームの大将だけがただ一人飛びそこなって一人K点に達しないかのように彼の表情は浮かない。

冷えた白ワインが運ばれ、改めて四人の再会と来たる男児に乾杯を交わす。鳥の辛味炒め、チヂミ、餃子。満州、朝鮮、日本と東亞地図を右往左往するような料理だが、オーナーシェフの日本人の腕が良いから、日本人が欲する味をフランスの食材で見事に再現している。そしてこの味はこの店に初来店したグルメの三人をいたく満足させ、とりわけアジア料理に開眼し、急にアジア熱を加速させている巻子を感動させた。

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