8年のフランス生活にお別れを (4) 〜歴史の糸〜

帰国を決心してから数日後にフランスに戻ったが、ストライキが始まったばかりで、国鉄は走らず、バスもなく、1ヶ月半ほど本気で難渋した。

空港からパリを経てフォンテーヌブローに帰宅する手段がなく、たまたま同じ便でフランスに仕事で来られたお師匠と行動を共にさせていただき、とりあえずパリにタクシーで出て、僕は急遽パリ北郊外の貧民窟に急に宿を取った。

そして、パリとフォンテーヌブローの往来は、極めて便数が少なく乗れればまぐれの、自家用車の相乗りアプリBlablaCarを利用するより他なかった。

こうして、国家財政の健全化を目指して、異様に定年の早い鉄道労働者の年金改革をしようとしたことに端を発する、歴史的ストライキの日々に身を置いた2019年の暮れと2020年の年始であった。

フランス名物ストライキ。とはいえ今回のものは特に酷かった。

労働大嫌いフランス人のこよなく愛する人生上のイベントの一つに、定年退職と年金暮らしがある。

日本人は働くのが好きで、定年が伸びることは逆にありがたい感じさえあるが、フランス人は働くのは原則嫌いで、とっとと定年退職して年金暮らしで残りの人生を楽しむことにとてつもない価値を置く。

日本人では定年でがっかりしたり、当たり前に所属していた労働社会から切り離されることに不安を感じる人も多いが、フランス人にとって定年は超絶にハッピーな出来事なのだ。

しかし、フランス国庫はジリ貧で、年金や社会保障費の支出を減らしたい。

フランス民衆にとってみれば、早く退職して年金生活に入るというのが国家から与えられる褒美でもあり、働いてきたことに対する権利でもあり、これが延びることなどあり得ない。

他方、平均寿命も伸びれば、国庫の財政健全化もしなくてはならない中で、交通労働者公務員の定年が50代からと早いことにメスが入りそうになりストライキが起きた。

日本人であったら、「未来の子供たちにつけを残さない」とか、「年老いても雇ってくれるなんて」というロジックで甘んじて定年延長と年金の日延べを受け入れるだろうが、フランス人はこと自分の権利や甘い汁に関しては、日本的公共ロジックよりもエゴを重んじる人々だから、こういうことが起きる。

無関係の民衆は便乗するものもあるが、徐々に公共交通機関が動かないことに対する不満を募らせ、ストライキ側の民衆へ怒りだす。精神的内ゲバの構造である。

数ヶ月もストライキをしていれば、今度は自分たちの月給が振り込まれなくなるからと、1月半ばぐらいから徐々に電車バスが動き出し、徹底抗戦派の国鉄南労組以外からストライキは収束していった。

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