黄色いベスト運動(2)~EUのほころびの中で~

マクロンの財政復興政策が頓挫したのは、数パーセントの増税や数十万円というのは、金持ちには痛くもかゆくもないが、痛みを受けるのは下々だという事を忘れ、彼らの不平等感に火をつけたからに他ならない。

そして、ピラミッド構造的にも圧倒的に数が多いのはいわゆる庶民ということに、この大統領は思いが至らない。

よってマクロンは、ほとんど全てのフランス人を敵に回した。

SNSの時代、そして、フランスの平民の持つ革命以降の反逆性を歴史から考え、予見できなかったのは、21世紀のフランス大統領としては致命的である。

そして、このフランス社会においてほんの一部に過ぎない人々による、苛烈な黄色いベスト運動が起こり、当初、「君たちの言うことは聞かない。即刻解散せよ。」と言ったにも関わらず、これに譲歩し、政策を撤回したことで、マクロン大統領の権威は失墜した。

権威主義のフランス人エリート大統領が、自らその権威を損ない、誰からも相手にされない形式としての大統領に成り下がったのである。

人は一万円という紙切れを見たときに、高い立派な紙幣だと思い込み合っているから、その紙を差し出せば、店が何がしかのものをくれる。一万円札は、紙と印字に、「高い」という信用と権威を帯びている。

他方、大統領も、衆庶から「フランス共和国大統領閣下」としての眼差しで、信用と権威とともに見られていないと、権力を行使しながら、政治判断を行使することはできない。

選挙により選ばれ、在任中は、首相よりも圧倒的に、国家権力を専横する大統領だからこそ、適切な権威をまとっていなくてはならない。

今や、誰もマクロンを行動力のある権威としての大統領とはみなしていない。

黄色いベストのみならず、普通のフランスの人々も、マクロンは、何かしら突き上げれば前言を撤回する人ということになってしまった。

この権威の失墜で、マクロンは今後国家の痛みを伴う改革を進めることはできなくなった。そして、死に体のフランスの国家財政は、テコ入れすることさえできないままに、堕ちていくことは必定である。

もはや、次期大統領選で勝つ見込みがないのだから、国を思い、そこに命をかけ、未来に審判を仰ぎ、肝を据え、正しいと信ずることを思い切りやるのが、威厳ある大統領としての適切な行動であった。

 

蓋し、日本もフランスも、今の政治屋は胆力もなく、「政治生命」という謎の命を持ちながら、国や民のために、本当の命は賭けないから、国を毀ち、過つのである。

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