三十路男と三十路女の恋愛・子作り・結婚 〜ジャポンetフランス〜

さて、キャメルと彼女が付き合いたてのころ、彼は、政治信条や価値観が彼女と違いすぎるという悩みを吐露した。その時点で一緒に将来を見据え家族となることは難しいと言えるが、それだけでなく、彼女は三十路間近にして、即座に子供を作ることを欲していた。また、アラブ系の彼女は、キャメルが出たいと願う地元の町に一生住み続けたい。例えて、華僑がチャイナタウンに住み続けるように、民族や価値観が同質の人間たちの共同体で住むことは楽だから、彼女がパリ郊外の住みなれた地元から出るアイディアさえないことは理解できる。

彼女の身上も、悲惨なことだが、アル中の父君をそのせいで亡くしたばかりで、彼女は、子供と家族を求めていた。そこにキャメルが現れた。キャメルは実に優しい性格だから、そういう心の痛みに耐え忍ぶ人間がそばにいたら確実に助けるような人間である。そして純粋だから、それが彼の大志に反して、自分の人生を小さい方へ纏めかねない地雷だとしても、それを厭わず助けるような質である。また、彼も女を求めていたからちょうどそこにひとまず落ち着いた。

しかし、僕はこのまま彼らの仲が深まれば、子供を欲する女に、これから経験を積みに外に出ていこうとしているキャメルの人生が引っ張られて小さく纏まることを感じていた。おまけに、二人の価値観は根底から違うから、できれば、若い時の一彼女で終わっておく方がベストと思ったのである。無論キャメルの生まれをして分母は小さいであろうが、キャメルにはもっと彼に似合う女がいるはずなのである。

キャメルが彼女との政治信条や価値観が合わないと言った日の夜は満天の星空であった。そして、僕は海辺で彼に、「お前本当にあの女を愛しているか?」と問うた。彼は僕に、「惚れている。」と返した。その後僕が拙い経験から、「君たちは見ている先が違いすぎるから、お前はお前の道を行くが良い。」などと言って、彼は少しばかり憮然とした表情を見せた。

険のあるキャメルの彼女のことは、僕は嫌いではないし友達として全くアリ。寂しいのに笑顔満点な彼女は頑張る人間である。笑顔の人間はフランスでは貴重だ。しかし僕ら三人は歴史や社会学を好み知的好奇心が強いから、時折タバコを吸いながら、込み入った話題をも好むのに対し、彼女にそれを求めることはできない。とはいえ、僕と一緒にいるときは、とりとめのない話をしてくれるこの彼女を人として面白いとも思っている。だが、マルボロは、僕のようにズゲズゲものを言うタイプではないから、いつもマイルドに言うが、この彼女のことを初めから余り好いていない。

それから程なくして、キャメルは、独身時代に彼女が買った、同じ街の小さなアパートで同居を始め、即座に子供ができた。

僕はフォンテーヌブローに住んでいて、最近はパリへの稼働率やフットワークが落ちてしまったから、郊外に住みその近辺の中学で働くキャメルとは一層会う機会が減っている。そのため、常に会っているのは、マルボロキャメルの二人である。

子供ができた知らせを最初に受けたのはマルボロである。マルボロと僕はパリで時折会うが、その時に、それを僕に伝えた。しかし、キャメルは僕に直接説明したいとのことだから、知らないことにして、じきにキャメルから飲みに誘われた。

キャメルは相変わらずの風貌をしていた。しかし、もはや口をつけばマシンガントークで冗談しか言わないという、フランス人離れしたかつての面影はない。

完全に期せずして、そして、自分の夢の半ばで、若い父となることに困惑していた。

マルボロは思慮深く余計なことは言わないから知らなかったが、彼は子供ができた当初は、マルボロの前で泣いたと言う。取り乱したのである。

そして、キャメルは僕に「女を愛したことはあるか?」と尋ねた。満天の星空の夜からの逆質問である。僕は「まだ本気で愛を知覚し、そういう女と一緒になれた試しはないね。まあ、次の恋愛は人生を見据えられる女と一緒になりたいと思うし、そうあるつもりだ。」と答え、彼は「僕もだ。」と即答した。

これは悲惨な会話である。ロジックの中で、キャメルは、惚れていたはずの、そして彼の子を宿した彼女を愛していないと言っているのである。

その後酒と会話は進んだ。

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