キャビンアテンダントの友達が、僕にLINEを寄越した。
「今同僚がパリにいるんだけど、切符の抜き打ち検査で、電子不良で切符を通していないと見做されて、50ユーロの罰金を払わされた。説明しても、切符を携帯やクレジットカードと一緒に入れるなと言われたらしい。」
「これがフランスの洗礼だよ。」
こんなことを話した丁度数時間後、パリリヨン駅の地下鉄の通路で検閲があった。
大きなスーツケースを横に、観光客と思われる金髪の女の子が泣いていた。
何かのっぴきならない事情があるのかもしれないから、泣かすまでのことはないであろう。
そんなことよりも、改札を飛び越えたりするような懲らしめるべき悪党がいる。
ヤクザよりもチンピラ、高級役人よりも小役人。
なして、権力の末端にいる奴ほど、横柄であり、つまらぬ権力を民に振りかざすのであろうか。
フランスの改札のシステムは、大体は、入るときにチケットを通して、それで終わりである。
知らないで途中で切符を捨てたり、乗り越し精算もないから、間違って乗り越して見つかれば万事は休する。
また、しばしば、チケットやIC定期が通されたのに、扉が壊れて開かず、二度は通せないから、改札内に入れなくなることもある。
あるいは、駅の全ての改札が故障していて開け放たれており、乗車券を通せない状態で電車に乗らざるを得なくなることもある。
改札が頻繁に故障し、エスカレーターやエレベーターも動いていれば御の字。機械化しても運用できないなら、労働人口も増やせることだから、改札から何から全部人力社会に戻してくれ。そう常に思っている。
そのため、この中途半端な機械化社会のフランスで、一番外国人が洗礼を浴びるのが、電車の罰金であろう。
僕は、渡仏当初に知らないで乗り越して罰金を払ったことがある。急行電車に乗ってしまい、切符のゾーンを超えたのである。
たまたま隣のボックスシートに乗り合わせた、そうは見えない日仏ハーフの女の人が助けてくれようとしたが、問答無用であった。
そんなことはどうでも良いが、美人だったから連絡先を聞いておくべきであった。
あるお方は、知人からいらないからと譲り受けた切符が小児用で、気付かずに使ってしまい、検閲でそれが発覚して罰金を払わされるという罰ゲームのような展開を僕に話してくれた。
日本の小児用切符のように○に小などという分かりやすい印字はしていないから、実に罰ゲームである。
フランスの小役人は脳無耳無であり、問答は無用であるから、言い訳したって泣いたって無駄で、難癖をつけられたら終わりである。
フランスの皆が鉄道マンを馬鹿にして嫌うのは、こういう人の心なく、罰すべきを罰せず、人の過失に漬け込むような、徴税請負人のような彼らのいやらしい小役人ぶりにこそあるのである。
フランスの鉄道だけは、寸分の狂いなく、完璧に完璧を重ねた完全無欠の用心をして乗らないと、痛い目に合う。